座談会「食から創る家づくり」

旭川圏で「食」に関わる各分野のプロが、家族の幸せを実現する「食」のあり方、そしてキッチンや食品庫など、住まいと食の関わりについて議論します。

第1回は、美食&情報マガジン kutta 尾崎満範編集長に、安心して食べられる健康的な食生活の方法を伺いました。

第2回は、旭川大学短期大学部の豊島琴恵教授が、食の楽しさ、食材と食の関わり、食を通じて家族に愛情を伝えていくことについて伺います。

座談会「食から創る家づくり」

写真:豊島琴恵教授

第2回 料理が楽しいキッチン〜食を通じて家族に愛情を伝える方法

旭川大学短期大学部 生活学科
食物栄養専攻 豊島琴恵教授

写真:藤原立人社長、豊島琴恵教授、尾崎満範編集長、太田貴洋さん

右から藤原立人社長(アーケン)、豊島琴恵教授(旭川大学短期大学部生活学科)、尾崎満範編集長(デザインスタジオ・オザキ代表)、太田貴洋さん(アーケン)

「食」の大切さを見直す

私は、旭川大学短期大学部で「給食管理実習」の科目を教えています。実習を通し、栄養士として社会に出てから、原価管理を行った上で、しっかり献立作成や大量調理の管理業務ができるよう指導しています。

栄養士は、食材をどこから調達するのか、食品の流通経路を理解し自ら購入先を確保する力も求められます。その際、食の安全を考え、地元の生産者が丹精込めて育てている食材があることに気づくことが大切です。この地域の素晴らしい食材を理解し活かすこと、発信することも「食」に関わる上でとても重要だと思います。

そこで、学生たちを畑に連れて行き、地域の農業者から野菜作りを教えて頂きながら、収穫した食材や農家さんから調達した野菜でお総菜をつくって販売するなどの取組を行ってきました。

写真左が豊島先生。美味しいキッシュをいただきながらのディスカッション

農作業に対する学生の関心はさまざまで、野菜作りに熱心な子もいれば、イヤイヤ雑草取りをする学生もいます。でも、次の世代の学生たち、将来親になる可能性のある子ども達に、自ら作物を育み、収穫して調理することが、どれほど美味しく食べられることかを経験して欲しいと思っています。生産者の方も毎年、さまざまな学生に根気強く農業の大切さを伝えてくれています。

食で愛情を伝える

食に関する取組を行なうようになったのは、父の影響だと思います。父は中学校の教員をしていましたが、週末になると台所に立って、家族の食事を作ってくれる人でした。

「お父さんのじゃなくてカップラーメンが食べたい」と思わず言ってしまった時には、マグカップに手作りのラーメンを入れて出すような父で、家族に食べさせる料理は市販品は使わず、出来る限り手作りをしていましたし、私がケーキを作っていると、楽しそうに一緒に作ってくれるなど、子どもへ「食」を通じて愛情を伝えてくれた人でした。

豊島先生のお庭にはバラなどのお花の他に、ブルーベリーやミニトマト、ナスなども育っていました。

そのため、食への関心が自然と生まれ、栄養士養成短大で資格を取得。卒業後はそのまま卒業校で11年間助手に就き、その後、東京でフードコーディネーターの専門学校に通いつつ、服部幸應先生のクッキングスタジオでアシスタントを経験。料理の知識だけでなく、料理の魅せ方や話術なども学びました。道外で暮らしていたときに改めて、北海道の食材の豊かさ、ブランド力を強く感じました。そうした経験を経て、現在は旭川大学短期大学部で若い世代に「地域に根差した食育」を教えています。

玄関入ってすぐキッチン。キッチンが主役の家づくり

私が今、東川町に住んでいるのは、旭岳へ温泉に入りに行ったときに眺めた大雪山や田園風景の美しさに感動したからです。朝も夜もこんな景色を望んで過ごせるのなら、なんと贅沢なことだろう・・と・。

東川町内にある豊島邸

ある女性の設計者と出会い、どんな暮らしをしたいかと聞かれた時に、父が作ってくれた料理や教え子たちがいつも集っていた思い出を伝えたところ、玄関を開けたらすぐの位置に、アイランド型の大きな調理台があって、お風呂場や寝室などのプライベートの部屋が2階にあるという、キッチンが大きな役割となる家を提案してくれました。

玄関を開けるとすぐ大きなキッチン

その提案に強く惹かれ、大雪山も一望できるところに家を建て家族と暮らしています。先週末は卒業生が7人も泊まりに来てくれて、料理から一緒に行ない、賑やかに食事を楽しみました。「寝食を共にする」ということわざの通り、食はコミュニケーションを深め、生活を豊かにする上でも欠かせない大切なツールだと思います。

料理の時間も大切な時間

日本のキッチンは、家の中でも割と奥の方にあって、調理用具も目に付かないようにすっきり収納するのが主流だと思います。そのため、玄関明けたらすぐキッチン!のこの家に驚かれる方も沢山います。でも家の中心に大きなキッチンがあるというのは、カナダなどでは珍しくありません。北欧には食の営みを大事にするライフスタイルが主流にあるのだと思います。

今の時代、共働き家庭も多く、料理は女性がするべきという概念も変わってきていると思います。我が家も私が帰宅が遅い日は夫が晩ご飯を用意してくれることはよくあります。大事なことは家族で分かち合うこと。食の価値観が同じであるか・・です。

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緑豊かなお庭

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愛犬も仲良く庭を眺めています

忙しい日常の中、料理にかける時間や手間を極力減らそうという傾向が強い時代とはいえ、無理のない範囲でできるだけ家族の食事は手作りをしたいと思います。化学調味料を多用したり、インスタント食品で済ますのではなく、父がしてくれたように、出汁を取り、素材を大事に料理を楽しむようにしています。

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食の安全を真剣に議論しつつ、食生活の面白い話も

今回は、尾崎さん、藤原さんと、食を大切にする暮らし、住まいを考える機会をいただきました。

私の今のキッチンスタイルは、調理台のスペースも空間も広く調理がしやすい環境です。従来多かった壁に向かって料理をするスタイルではなく、家の中心に向かって料理をするスタイルは開放感があって快適だと思います。

料理が楽しくなるキッチンの空間を如何につくるかは、家を建てるに当たってとても重要です。私は恵まれていると思います。これから始まる「食から創る家づくり」。私も良い提案ができればと思います。

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