座談会「食から創る家づくり」

旭川圏で「食」に関わる各分野のプロが、家族の幸せを実現する「食」と「家」のあり方を議論する座談会「食から創る家づくり」。

第1回は美食&情報マガジン kutta 尾崎満範編集長
第2回は旭川大学短期大学部の豊島琴恵教授
に伺いました。

第3回は、旭川の住宅会社アーケンの藤原立人社長が、住まいのプランニングの中でキッチンを重視する理由を語ります。

座談会「食から創る家づくり」

写真:藤原立人社長

第3回 愛着が深まるオリジナルキッチン

旭川の住宅会社アーケン
藤原立人社長

「建築」からではなく「食」からの視点

私は、子どもの頃の夢を叶えようと旭川で大工になり、ハウスメーカーの設計・営業という仕事も経験、今はアーケンという住宅会社を経営しています。

妻が東川町出身で、里帰り出産の時に、私も東川で過ごし、こんな良い町ならここで暮らしたいと思って、今は、東川に自分で家を建てて家族と暮らしています。

大工出身ですし、ハードとしての「家」をしっかりしたものにすることはもちろん大前提ですが、住宅会社の役割は住宅性能の確保だけでなく、住む人の暮らしが快適に、より良くなるように、ライフスタイルや生活動線などを踏まえた設計・プランニングをすることだと思っています。

それを実現するには住宅会社としてのいつものやり方、考え方などが邪魔をする面があります。そこで「建築」から見た「ライフスタイル」ではなく「ライフスタイル」から見た「建築」。さらに言えば「食」から見た「建築」といった、別の視点から見た取り組み方が必要だと思っています。それが現在進めている「食から創る家づくり」プロジェクトです。

食の専門家との連携

きっかけは旭川で出会った尾崎満範さんです。尾崎さんは食の安全の大切さ、そして野菜の保存が家づくりでも欠かせないという話をしてくれました。

私も学生時代(酪農学園大学)には酪農や農業などを学び、食の大切さや環境に興味を持っていたこともあって、大いに刺激を受け共感しました。尾崎さんの本業はグラフィックデザイナーですが「食」に対する熱意は凄いものがあります。

第1回 家族の健康を守る!野菜は自給&保存。外食は無化調のお店を!

旭川大学短期大学部の豊島琴恵教授は、旭川大学短期大学部で給食管理実習の科目を指導され、栄養士が現場で大量調理をする上で、しっかり献立作成、原価管理などができるように指導するほか、食品の流通経路や地元の生産者の思いや取組を伝えるために、学生を畑に連れて行って農作業や惣菜づくりなどを指導されています。ご自宅も、キッチンが主役とも言えるような、とても使い勝手の良いオリジナルのキッチンを使われています。

第2回 料理が楽しいキッチン〜食を通じて愛情を伝える方法

このお二人と一緒に、「食」を大切にするキッチン、そして住まいのあり方を検討していきたいと思っています。

キッチン・ダイニングの重要性

そもそも食、暮らし、住まいは非常に密接に結び付いていて、なおかつ様々な課題を抱えています。

例えば旭川で、離乳食・幼児食の研究と指導をされている園田奈緒先生は、子育てでお母さんたちが抱える食に関する不安や悩みを解決する活動をされています。

ご自宅兼サロンを当社(アーケン)で建てて頂き、調理や収納、片付けがしやすいキッチンで、なおかつ10人近い方が一緒に料理の方法を学べる空間づくりを園田先生と一から検討させていただいたことも、私にとって大きな経験でした。

園田邸で食からつくる家づくりセミナーを開催させていただいたこともあります。

その他にも、一軒一軒の家づくりを担当させていただく度に、お母さんが料理をしながらお子さんの宿題を見てあげやすいキッチンとダイニングの関係、薪ストーブの上で鍋を温めたり、家族が一緒に炎を眺めながら食後のひとときを過ごす空間づくり、料理と後片付けがしやすいキッチンや収納、食材を保存し使う時も都合が良い食品庫(パントリー)など、暮らしと食に関してお客様とよく話し合い、キッチンやリビング、ダイニングのプランに反映させてきました。

既製のシステムキッチンが主流だけど・・・

住み心地の良い家を実現するには、特に、キッチンやダイニング、リビングの空間づくりがとても重要です。

まずキッチンでは、8割以上の方がメーカーのシステムキッチン(既製品)を採用します。

ハウスメーカーも工務店も、家づくりを検討中の方をキッチンメーカーのショールームに連れて行きます。この中から収納や掃除など機能性、価格やデザインなど、製品の特徴を比較検討して、良いものを選びましょう、とお話しするので、キッチンは既製品になるのです。

住宅会社の大半がシステムキッチンを標準プランに入れていますし、機能性や価格面でシステムキッチンは優れている面もあります。ある意味、住宅会社はシステムキッチンを仕入れ、設置するだけです。

でも、オーナーが思い描く子育てや調理、家族の団らん、家事動線のあり方、好みのデザインなどをよく検討すると、システムキッチンでは満たされない場合もあるはずです。

愛着が深まるオリジナルキッチン

豊島先生のおっしゃるような、家族や友人知人と一緒に料理を楽しみ、そして家族への愛情を食を通じて伝えるような、食を暮らしの軸に据えて大切にする暮らし。

尾崎さんが提唱する、野菜を作って保存し、安全で美味しい料理を通年で食べられる食品庫や地下室付きのキッチンなどを備え、自分と家族の健康を大切にする暮らし。

それ以外でも、それぞれの思いで「食」を大切にした暮らしを実現したいなら、標準的な顧客のニーズに基づいた既製品のシステムキッチンをショールームやカタログで選ぶよりも、オーナーと設計者が一から、食とキッチンのあり方を考え、それに合ったオリジナルのキッチンを考えて実現させることをおすすめします。

キッチンに対しても人ぞれぞれの要望があります。漠然とした「対面キッチンが良いかな?」で始まる打合せでも、調理器具のサイズや配置を一つひとつ検討するような入念なキッチンづくりの打合せからスタートすることもあります。

できあがるキッチンもさまざまです。じっくり考えたオリジナルキッチンは、使いやすく愛着も深まります。キッチンの位置などが家の間取りにも大きく影響しますので、家の中でキッチンに一番時間をかけることも珍しくありませんし、家づくりの打合せの早い段階でキッチンを検討することが大切だと思っています。

既成のシステムキッチンだけがキッチンではありませんし、オリジナルのオーダーキッチンの良さをぜひ皆さんに実感してほしいと思っています。

なお、キッチンや背面収納(バックセット・カップボード)などの設計は私か当社の設計担当の太田貴洋。施工は家具職人や大工の中で、特にキッチン制作が得意で経験豊富な職人が担当します。

食材を保存するのに大変便利で、尾崎さんが提唱する野菜作りと長期保存も踏まえると、食品庫は欠かせない設備ですが、これも、食品庫は、5℃前後が適する食材は冷蔵庫、10℃前後で良いなら食品庫に、と、食材の保存量を踏まえた収納量の検討が大事になります。庭で野菜を多く作れるので長期保存したい、味噌や漬物なども作れる方は、食品庫はぜひ広くしたいですね。

年数を経るほど風格・価値が高まる

無垢材など素材にこだわって作った家は、年数を重ねる毎に風合いが増し、アンティークのような価値が生まれてきます。キッチンも同様ですが、無垢の木材やレンガなど素材にこだわると、年数を重ねる毎に風格、価値が高まっていくのです。

一方システムキッチンの方は、機能が新型に比べ見劣りしたり、色合いなどに劣化を感じたりします。またシステムキッチンは故障などがあると全交換になることも少なくありませんが、職人が創る手作りのキッチンなら部品ごとの修理や交換も可能です。

それが「食から創る家づくり」でご提案したいオリジナルのキッチンです。

間取り、デザイン、性能、そしてキッチンなど、家づくりの全てを奥さまやご主人と一から、目指す暮らしに沿ったカタチで考え、実現させていくのがアーケンの家づくりですが、「キッチン」への検討をより深めていければ、家づくり全体が、ライフスタイルを踏まえた満足度の高いものになるはず、というのが「食から創る家づくり」の狙いです。

お客様のご要望を踏まえ、私がプランニングしたキッチンは、キッチン制作が得意な家具職人や大工が心を込めて制作します。

子どもが食べる食事は、親が作った料理と給食です。子どもは食事の内容を選択できませんから、親次第になるわけです。手作りで、安全で美味しい料理を食べて育った子どもはきっと、健康で、親の愛情も感じて成長すると思います。家族の健康と幸せにつながるようなキッチン、そして家づくりをしたいと思っています。

続いて、豊島教授、尾崎編集長と一緒に、オリジナルキッチンづくりについてディスカッションを行います。